夏の思い出

作詞 江間章子
作曲 中田喜直

1.夏がくれば 思い出す
  はるかな尾瀬 遠い空
  霧の中に うかびくる
  やさしい影 野の小

  水芭蕉の花が 咲いている
  夢見て咲いている 水の辺(ほと)り
  石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる

  はるかな尾瀬 遠い空

2.夏がくれば 思い出す
  はるかな尾瀬 野の旅よ
  花の中に そよそよと
  ゆれゆれる 浮き島よ

  水芭蕉の花が 匂っている
  夢見て匂っている 水の辺り
  まなこつぶれば なつかしい

  はるかな尾瀬 遠い空

この曲の作詞は江間章子、作曲は中田喜直で、昭和24年にラジオで初めて放送され、多くの人に親しまれていくようになりました。江間氏は子ども時代を岩手県の平舘(たいらだて)村で過ごしました。雪解けの後、田んぼの周りに咲いていた水芭蕉がとても心に残っていたそうです。その後戦時中に、食料を手に入れるため群馬県片品村を訪れた時に見た見渡す限りの水芭蕉と、幼い頃に見た水芭蕉が重なって、夢心地だったそうです。「こんな時でも夢と希望があるんだ。」という感動と思い出が詩になったと語っています。
「夢見て咲いている」「夢見て匂っている」などの歌詞は、白い小さな水芭蕉がやさしくも凛として咲いている、そのような印象を受けます。
作曲の中田氏は、日本語のアクセントに忠実な曲作りをずーっと貫いた方です。わたし達がこの「夏の思い出」を歌うとき、その情景が鮮やかに浮かんでくるのは、詩とメロディがぴ ったりと合っているからでしょう。情感あふれる美しい歌だなとしみじみ思います。中田氏の作品は他にも、「雪の降る街を」「小さい秋見つけた」「めだかの学校」「心の窓に灯を」などがあります。

戦時中の疲弊しきった中、目の前にひろがるまっ白な水芭蕉は、まぶしいほどに心に迫ってきて、まるで別世界にでも入ったような心地だったのでしょう。道端に咲いている小さな草花でさえ、人の心を大きく癒し、慰めを与えてくれます。

この歌を口ずさむ時、初夏の風の中にいるようなさわやかさを感じます。