早春賦

作詞 吉丸一昌
作曲 中田 章

1.
春は名のみの 風の寒さや
谷の鶯 歌は思えど
時にあらずと 声も立てず
時にあらずと 声もたてず

2.
氷解け去り 葦は角ぐむ
さては時ぞと 思うあやにく
今日もきのうも 雪の空
今日もきのうも 雪の空

3.
春と聞かねば 知らでありしを
聞けば急(せ)かるる 胸の思いを
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か

毎年、節分、立春の頃になると、今回取り上げた「早春賦」の歌を耳にすることが多くなります。

この歌を聞くと、「春がもう少しでやってくるんだなぁ。」という喜びが湧いてくるものです。

この時期の定番曲となった「早春賦」は、大正2年に文部省唱歌として発表されました。作詞は吉丸一昌、作曲は中田章、二人とも当時の東京音楽学校(現、東京芸術大学)の教授でした。

作詞者の吉丸一昌氏は、1873年(明治6年)、大分県臼杵の下級武士の家に生まれました。苦学して旧制五校、帝大に学び、東京音楽学校の教授となって、音楽の道へ進みました。
作曲者の中田章氏は、「夏の思い出」の作曲家中田喜直氏の父としても知られています。このメロディは、モーツァルトの後期の作品「春の歌」をヒントにしているとも言われています。

当時の日本では珍しい6/8拍子の曲で、流れるようなメロディです。20世紀初頭、日本はある種ヨーロッパ音楽への憧れが強かったのかもしれません。唱歌というよりも、日本歌曲というような趣もあります。現代の私たちには少し言葉が難解なところもありますが、この言葉、言い回しだからこそ、春を切望する人々の思いが伝わってくるのではないでしょうか。春告げ鳥と言われるウグイスや氷が解けて角のように芽を出している葦、雪模様の空などを通して、春を待ち焦がれる人々の思いが迫ってきます。
歌詞の意味は次のようです。

1.
春と言っても名ばかりで 風は冷たい
谷にいる鶯は 歌うかと思ったが
まだその時ではないと 声もださない

2.
氷が解け 葦は芽吹いてきた
春がやってきたかと思ったが あいにく
今日も昨日も雪の空だ

3.
春だと聞かなかったら 知らなかったのに
聞いてしまったから 気がはやってしまう
この時期のこの気持ちは どうしたらよいのだろうか