作詞 武島羽衣
作曲 田中穂積
1.
空にさえずる 鳥の声
峯より落つる 滝の音
大波小波 とうとうと
響き絶えせぬ 海の音
聞けや人々 面白き
此の天然の 音楽を
調べ自在に 弾き給う(たもう)
神の御手(おんて)の 尊しや
2.
春は桜の あや衣
秋は紅葉の 唐錦(からにしき)
夏は涼しき 月の絹
冬は真白き 雪の布
見よや人々 美しき
この天然の 織物を
手際(てぎわ)見事に 織り給う
神のたくみの 尊しや
3.
うす墨ひける 四方(よも)の山
くれない匂う 横がすみ
海辺はるかに うち続く
青松白砂(せいしょうはくしゃ)の 美しさ
見よや人々 たぐいなき
この天然の うつしえを
筆も及ばず かき給う
神の力の 尊しや
4.
朝(あした)に起る 雲の殿
夕べにかかる 虹の橋
晴れたる空を 見渡せば
青天井に 似たるかな
仰げ人々 珍らしき
此の天然の 建築を
かく広大に たて給う
神の御業(みわざ)の 尊しや
「美しき天然」という歌を歌ったことがありますか。
メロディは、以前サーカスの呼び込み音楽として、また無声映画の伴奏音楽として使われていました。元々この曲は、佐世保海兵団海軍楽隊長の田中穂積が、新設女学校の愛唱歌を作って欲しいと校長から依頼され作られたものです。彼は武島羽衣の詩を目にして、これに九十九島の風景を重ねあわせて作曲したといわれています。哀愁ある短音階のメロディが、当時初めて使われたワルツのリズムとぴったり合い、人々が好んで歌ったそうです。日本の四季におりなす独自の素晴らしい自然を、1番では音楽、2番では織物、3番では絵、4番では建築物として格調高く淡々と謳っています。この歌が発表されたのは明治時代中ごろですが、「見てごらん、聞いてごらん」と、現代に生きる私たちに語りかけられているようです。この歌詞を読んでもわかりますが、武島羽衣はキリスト教徒の妻(とな子)の影響を大きく受けていたそうです。彼は美しい天然の中に創造主なる神様を仰ぎ、豊かに讃えています。今では、あまり歌われなくなりましたが、この素晴らしい歌を受け継いでいきたいものです。
ちなみに、武島羽衣は「♪春のうららの隅田川~」で始まる歌「花」の作詞者です。